永久にユウトピヤは來ないと云ふ事になるんだ。」
「然し、結局さうだとは考へられても、僕は其處まで人生に絶望してしまひたくはないよ。――人間にそのユウトピヤへの夢がなかつたら、云ひ換へれば、自分達の生活をより善く、より幸福にしようとする感激がなくなつたら……」
「そりや寂しい。或は死ぬより外はあるまい……」と、水島君は吐き出すやうに云つた。「だがね、君の云ふその夢や感激つて云ふのは何だらう? 人間を胡麻化す或る操《あやつ》りの糸に過ぎないんぢやないかね……」
 私はそれには何故か答へる事が出來なかつた。水島君は直ぐに云ひ重ねた。
「でも、そんな操りの糸にでも操られ得る人はまだ幸福だよ。――夢も感激も喪つてゐながら、而も人間は容易に死ねやしない。そして、その矛盾や、寂しさを胡麻化しながら生き續けてゐる。あの酒塲《カバレエ》の女達だつて、またその女達を亨樂の對象にしてゐる男達だつて、要するに、さうした人間の仲間に過ぎないと僕は思ふよ。」
 水島君はふつと深く溜息づいて、そのまま口を噤んだ。私も何か知ら不意に索漠たる氣持を胸に感じながら、そのまま口を噤んだ。そして、二人はただ白い息を吐きながら
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