、石のやうに凍りついた地面に四つの靴音を響かせながら、默默と歩いて行つた。何時となく酒の醉はさめかけて來た。ひしひしと迫つてくる夜寒さに、私はこごえるやうな足先の痛みを意識した。
K街とP街との交叉點で、明日の再會を約しながら水島君と別れた時、町角の高い時計塔の針は丁度二時を指してゐた。其處から私の泊つてゐるMホテルまではまだ七八町の道程だつたが、送らうといふ水島君の詞を強ひて斷つて、薄暗い並木の蔭を私は一人俯向き勝ちに歩き始めた。
「然し、水島君も變つたなあ。――何と云ふ變り方なんだらう?」と、私はふと心の中に呟いた。
若若しい人生の夢想家で、感激的なロマンテイシストで、而も、臆病と云ひたい程の道徳家だつた過去の水島君を思ふと、私は三年近くのハルピンの生活が同君の性格に與へた影響の深さを考へないではゐられなかつた。が、またそれ程に同君の心を荒ませ、生活を散文化させ、性格を暗い否定主義《ベツシミズム》に誘つた町の空氣を思ふと、一週間の滯在の間に受けた色色な印象、見聞のすべてが一層切實なものに感じられた。他愛なく笑ひさざめく男達の前で裸踊する痩せこけた女の顏、血烟立ててコロツと前に轉
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