がつた馬賊の首、死骸のやうに床にのけぞり返つてゐた阿片中毒のロシヤ人の無氣味な瞳の光……。
「愚と、惡と、醜と。――何と云ふ堪らない町なんだらう?」と、呟きながら、私はP街の大通から、近道の暗い横町へ折れ曲つて、重く頭にかぶさつて來た憂欝さを遁れるやうに足を急がせた。
商店の倉庫らしい建物の立ち並んだ、高い、じめじめした煉瓦塀の兩側から迫つた、二三間幅の道。遠くの暗闇の中に見覺えのある支那料理屋の明りが、ぽつつと一つ光つてゐる。その明りの處を右に折れてまた大通へ出ると、Mホテルなのであつたが、人通さへないその道へ足に任せて何氣なく飛び込んで、私は思はず水を浴せられたやうにぞつとした。
私は兩手を外套のポケツトに差し込み、首を襟の中に縮こめながら、變に高く反響する自分の靴音におびえおびえ歩き續けて行つた。が、暫くすると、私は不意に背後の方に低い靴音を耳にした。振り返る氣込もなかつた。私は不意に高く動氣打たせながら、ただ歩調を早めるばかりだつた。
「あなた、あなた……」と、靴音を聞きつけてから七八間も歩いたかと思ふと、私は突然背後から呼び掛けられた。而も、その聲はアクセントこそ違つてゐ
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