りますか?」と、暫くすると、女は不意に私に振り返つた。
「分る……」と、私は答へた。
「おお、あなたは英語を話せるんですか?」と、女は急に調子づいて、流暢な英語で云ひ返した。
「うむ。少しなら話せる……」と、私は何となく氣輕になつた氣持で應じた。
「あなたは何處にお住みですの?」と、女は足を弛めて私と肩すれすれになりながら、直ぐに訊ねかけた。
「M街に……」と、私は出鱈目に答へた。
「さう。――私、日本の紳士を三四人知つてゐますよ。ミスタア・木村、ミスタア・高柳、ミスタア……」と、女は小聲に微笑を含んだ聲で云つた。
「私、そんな人知らない。」
「さうですか。」
女の英語は私のそれと比較にならない程巧だつた。そして、それは女が決して無教育者でない事を感じさせた。何れはこれも革命の不幸な犧牲者の一人に違ひない――さう思つた時、かりそめの好奇の念に驅られてゐる自分の心に痛みを感じない譯にはいかなかつた。が、異郷の見知らぬ町で、異郷の見知らぬ女との間に偶然起つて來たアバンチウルに對する強い興味は、その痛みを直ぐに覆ひ包んでしまつた。
「君の名前は?」と、私は無遠慮に訊ねかけた。
「カテリイナ
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