しさうにまさぐつてゐるのであつた。が、外國人にしては小柄な體を肩越しにぢつと見詰めながら、その着てゐる上着のひつつこい更紗模樣にふと氣が付くと、私はそれがロシヤの婦人に違ひない事を刹那に感じた。そして、何のために呼び止めたか、どんな種類の女であるかを頭の中にす早く考へてみた時、「素人の賣笑婦」と云ふその想像が瞬間に閃き過ぎた。
「どうぞ、わたくし、家、來て下さい……」婦人は俯向いたまままた歎願するやうに繰り返した。
瞬間の想像は私を答への詞にためらはせてしまつた。が、それと氣附いて或る落ち着きを得た私の心には、婦人に背中を向けようとする一つの感情と同時に、婦人に惹かれようとする好奇心らしい感情が明に動いてゐた。そして、其處にはなほ無氣味さに對する氣おくれの心が働いてゐたが、さめかけたとは云へまだ殘つてゐる幽かな醉心地が私をそそのかし始めたのも事實だつた。答へ澁つたまま、私は暫く身動きもせずに佇み過した。
と、婦人はちらと私を見上げて、また眼を伏せながら、半分口の中で不意に云つた。
「一圓《アデインゑん》、宜しいです。」
來たな――と云つたやうな、くすぐつたい氣持だつた。もう疑ふ餘
前へ
次へ
全32ページ中15ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
南部 修太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング