電信の火花さ。僕も初めの二三度こそきまりが悪かつたが、そんなことを繰り返してゐるうちに、とうとう仕舞ひには大膽になつて來て、ぢつと見詰めてゐてやつた。處が向うも負けないんだから、尚不思議なんだ。そはそはしてるやうな處があるかと思ふと、厭やに落ち着[#底本では「著」と誤り]いた處のある女なんだね。」
「ははあ、Sの奴、ひと眼で女に参つてしまつたな。」
と、恐らく四人の聞き手はさう思つてゐたでせう。S中尉はだんだん眞顏になつて來ました。
「で、僕は腹の中で考へたね。此奴高等淫賣かなんかかな――と。處が女の著物の趣味《このみ》から見ると、さうも思へないんだ。それに第一自分を考へて見ると、どう自惚れたつて、そんなものに見込みを著けられさうな御人體ぢやあないんだね。さうなると此方は少し弱味で、いささか薄氣味が惡くなつて來た。が、相變らず眼と眼の偵察戰は絶えないんだ。そのうちに電車が四谷見附に近づくと、女は降りる樣子なんだ。而も欲目かは知らないが、變に此方を誘ふやうな素振りを見せるぢやないか。」
丁度その時、十一時が打ちました。然し時計の音なんかは、皆《みんな》の聽覺の中には這入りませんでした
前へ
次へ
全16ページ中6ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
南部 修太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング