うた」と誤り]ことに Out of the question らしかつたのです。もつと皮肉に云へば、皆《みんな》は其故に一そう彼の物語を期待してゐました。で、彼が頭を掻きながら無骨な、而も困りきつた樣子で逡巡すればするだけ、四人の心の中には一種の好奇心が湧き立つてくるのです。こんな心持は誰しもあることでせう。どんなに親しい人達の間にでも、特にそれが親しければ親しいだけに強く起つてくる、一面から見れば隨分人の惡い惡戯氣分《いたづらきぶん》がS中尉を對象にしてそそり立てられて來たのです。かうなると、今まで少し沈んでゐた一座の空氣の中に、或る上つ調子な氣持が漂つて來て、四人の眼は意地惡く、S中尉の練兵燒けのした淺黒い顏にそそがれ始めました。へどもどするのはS中尉だけです。
「おい、夜が明けるぞ……」
と、口の惡いMは叫びました。
「まあ待てよ……」
やがてグラスを取り上げて、ベルモットに咽喉《のど》をうるほしたS中尉は、てれ隱しにバスの聲を一聲かう張り上げたかと思ふと、勿體らしく話し始めました。が、その顏には當惑らしい苦笑が絶えませんでした。
「どうも戀物語と云つちやあ、僕のは少し可笑し
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