んなことが出來るものか、分らないのは女の心持さ。そしてその晩は女がその家の門を這入るのまで見屆けて別れたんだ。」
「御苦勞樣だね……」
 と、Mは笑ひ出しました。
「まあ、もう少し聞き給へ。それから四五日經つてから、無論半信半疑で、その家へ電話を掛けると、間違ひもなくその女が出て來たんだ。で、その時打ち合せをして、或る處で出會ふ約束をしたんだ。その翌日だ。まさか來てやしまいとは思つたが、其處は欲目で行つて見ると、案の定ゐなかつた。さあ、さうなると、此方は未練があるだけに口惜しい、殘り惜しさが身を責める。堪《たま》らなくなつて、また五六日目かに電話を掛けると、もう二三日前に暇を取つて下がったと云ふんだつた。がつかりしたよ。さうならさうで、女の家を聞いて置けばよかつたが、跡の祭さ。だが、全く皆《みんな》に見せてやりたいやうな、垢抜けのした、charming な女だつたよ……」
 さう、最後の詞を途切ると、S中尉は如何にも口惜しさうに溜息をして、口を噤んでしまひました。
 私は彼の性格や、生活をよく知つてゐました。郷里に貧しい兩親を殘してゐる彼の生活は決して華かな、樂しいものではありませんで
前へ 次へ
全16ページ中12ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
南部 修太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング