さんはいきなりそれで子供の体《からだ》を縛《しば》りつけました。
 そして、こう言いました。
「坊主。行って来い。俺《おれ》が行くと好《い》いのだが、俺はちと重過ぎる。ちっとの間《ま》の辛抱だ。行って来い。行って梨の実を盗んで来い。」
 すると、子供が泣きながら、こう言いました。
「お爺さん。御免よ。若《も》し綱が切れて高い所から落っこちると、あたい死んじまうよ。よう。後生だから勘弁してお呉れよ。」
 いくら子供がこう言っても、爺さんは聞きませんでした。そうして、唯《ただ》早くしろ早くしろと子供をせッつくばかりでした。
 子供は為方《しかた》なしに、泣く泣く空から下がっている綱を猿のように登り始めました。子供の姿は段々高くなると一緒に段々小さくなりました。とうとう雲の中に隠れてしまいました。
 みんなは口を明いて、呆《あき》れたように空の方を見ていました。
 そうすると、やがて不意に、大きな梨の実が落ちて来ました。それはそれは今までに見た事もないような大きな梨の実でした。西瓜《すいか》ぐらい大きな梨の実でした。
 すると、爺さんはニコニコしながら、それを拾って、自分の直《す》ぐ側《そば
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