たが、やがて何か考えが浮んだように、俄《にわか》にニコニコとして、こう申しました。
「ええ。畏《かしこま》りました。だが、この寒空《さむぞら》にこの土地で梨の実を手に入れる事は出来ません。併《しか》し、わたくしは今梨の実の沢山になっているところを知っています。それは」
と空を指さしまして、
「あの天国のお庭でございます。ああ、これから天国のお庭の梨の実を盗んで参りますから、どうぞお目留められて御一覧を願います。」
爺さんはそう言いながら、側《そば》に置いてある箱から長い綱の大きな玉になったのを取り出しました。それから、その玉をほどくと、綱の一つの端《はじ》を持って、それを勢《いきおい》よく空へ投げ上げました。
すると、投げ上げた網の上の方で鉤《かぎ》か何かに引っかかりでもしたように、もう下へ降りて来ないのです。それどころではありません。爺さんが綱の玉を段々にほごすと、綱はするするするするとだんだん空の方へ、手《た》ぐられでもするように、上がって行くのです。とうとう綱の先の方は、雲の中へ隠れて、見えなくなってしまいました。
もうあといくらも綱が手許《てもと》に残っていなくなると、爺
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