とな》が大勢立っているので、よく見えません。そこで、乳母の背中におぶさりました。すると、そのお爺さんのしゃべっている事がよく聞えて来ました。
「ええ。お立ち合いの皆々様。わたくしは皆様方のお望みになる事なら、どんな事でもして御覧に入れます。大江山《おおえやま》の鬼が食べたいと仰《おっ》しゃる方があるなら、大江山の鬼を酢味噌《すみそ》にして差し上げます。足柄山《あしがらやま》の熊《くま》がお入用《いりよう》だとあれば、直《す》ぐここで足柄山の熊をお椀《わん》にして差し上げます……」
 すると見物の一人が、大きな声でこう叫《どな》りました。
「そんなら爺《じじ》い、梨の実を取って来い。」
 ところが、その時は冬で、地面の上には二三日前に降った雪が、まだ方々に白く残っているというような時でしたから、爺さんはひどく困ったような顔をしました。この冬の真最中《まっさいちゅう》に梨の実を取って来いと言われるのは、大江山の鬼の酢味噌が食べたいと言われるより、足柄山の熊のお椀が吸いたいと言われるより辛《つら》いというような顔つきをしました。
 爺さんは暫《しばら》く口の中で、何かぶつぶつ言ってるようでし
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