々、水が往來を流れてゐて面白かつたわ。玉簾の庭はめちやめちやなの。瀧はいつもの倍の倍位大きくなつてゐるのよ。あのお池の側の離れ見たいなものね、あれなんかも流れつちまつてゐるのよ。
 なんにも喰べる物がないから、お茶屋で懷中じる粉を買つて、お湯で解いて飮んだの。そしたら小さい日の丸の旗が出てよ。旅順口《りよじゆんこう》なんて書いてあるの。餘つ程古い懷中じる粉なのねえ。※[#始め二重括弧、1−2−54]懷中じる粉は買つたのではないのである。お茶屋ではもう何處かへ逃げてしまつて誰もゐなかつたのである。梅龍達はそこらに落ちてゐた懷中じる粉を拾つて來て水で解いて飮んだのである。これはもうお富に聞いて、わたしはちやんと知つてゐる。※[#終わり二重括弧、1−2−55]
 それから歸り道に大きな石を拾つたの。それは隨分大きな石なのよ。三人で一生懸命に持ちやげたの。どうかしてこの石で姐さんを欺して遣らうと思つて、新聞屋へ寄つて、新聞紙を一枚貰つたの。それからその新聞紙で石を丁寧に包んで、おはぎの積りで持つて歸つたの。
 家へ歸ると姐さんは一人で本を讀んでるのよ。「姐さん、おはぎをお土産に買つて來ましたよ
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