ちやんと前へ置いて、お行儀よく坐つて兩手を合せて一生懸命に何か拜んでゐるの。
春本の藝者はあたし達を東京の藝者だと思つたらしいの。※[#始め二重括弧、1−2−54]梅龍は時々こんな物の言ひやうをする。自分は藝者といふ者と一向關係がないやうに言ふのである。それではお孃さんぶつてゐるのかと言ふと、さうでもないのである。要するに唯何でも構はず思つた通りをどしどししやべるのである。※[#終わり二重括弧、1−2−55]だけど、聞くのも惡いと思つたんでせう。なんだかもぢもぢもぢもぢしてるのよ。「こんな所にゐては充《つま》りません。」だの何だのつて言ふの。なんだか愚痴見たいな心細い話ばかりするのよ。
その内に向うの山が崩れたッて噂なの。
すると何だか、轉がつて來たものがあるから、見ると、おむすびなの。一つ宛つきや呉れないのよ。それでもお腹が減つてたからおいしかつてよ。姐さんはどうしても喰べられないつて言ふから、あたし姐さんの分も喰べて上げたの。お數《かず》は懷の福神漬を出したんだけど、若菜さんは、そんなお腹ん中でこぼれた物なんか穢《きた》なくて喰べられないつて言ふの。だから、あたし一人で喰べた
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