》いているが、如何《どう》しても口が利けないし、声も出ないのだ、ただ女の膝《ひざ》、鼠地《ねずみじ》の縞物《しまもの》で、お召縮緬《めしちりめん》の着物と紫色の帯と、これだけが見えるばかり、そして恰《あだか》も上から何か重い物に、圧《おさ》え付けられるような具合に、何ともいえぬ苦しみだ、私は強《し》いて心を落着《おちつ》けて、耳を澄《すま》して考えてみると、時は既に真夜半《まよなか》のことであるから、四隣《あたり》はシーンとしているので、益々《ますます》物凄い、私は最早《もはや》苦しさと、恐ろしさとに堪《た》えかねて、跳起《はねお》きようとしたが、躯《からだ》一躰《いったい》が嘛痺《しび》れたようになって、起きる力も出ない、丁度《ちょうど》十五分ばかりの間《あいだ》というものは、この苦しい切無《せつな》い思《おもい》をつづけて、やがて吻《ほっ》という息を吐《つ》いてみると、蘇生《よみがえ》った様に躯《からだ》が楽になって、女も何時《いつ》しか、もう其処《そこ》には居なかった、洋燈《ランプ》も矢張《やはり》もとの如く点《つ》いていて、本が枕許《まくらもと》にあるばかりだ。私はその時に不図
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