女なのであった。
「何ゆえ人に毒蛇を投げた。次第に依っては用捨はないぞ」
「おゆるされえ」
 娘は泣き入った。青萱の中に身を投げ出して身を震わせた。
「ゆるすも、何もない。何ゆえ拙者へ毒蛇を投げつけたか」
 直芳は問いつめた。
「毒蛇を投げたのは貴郎《あなた》を殺したい為で御座んした」
「えッ」

       四

 突然毒蛇を投げて人殺しを企てた三面の娘の心は、容易に旅|画師《えし》には解けなかった。しかし段々問い詰めて見て、初めて分った。それは総べて三面谷に伝わる古くからの迷信から発したのであった。
 三面の女は、水に浴し黒髪を洗うのが習慣であった。その時、それを他郷の男の眼に見られたら、その女は一生不運である。良人《おっと》ある身は死別の悲しみを見る。良人なき者は縁談が纏《まと》まらず、やもめ暮しをするというのであった。
 そこで、それを免れるには、見たという他郷の人を、殺害すればよいというのであった。こうした場合の殺人罪は、この里では黙認されているのであった。すでにある時代の女は、毒草をひたし物にして、欺いてその男に食わして殺したという。それから最近の事件では、若い行脚僧《あ
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