んぎゃそう》がそれを見たので、娘の父が憤って、熊猟に用いる槍で突殺《つきころ》したともいう。その死骸は何《いず》れも炭焼|竈《がま》に入れて灰にしてしまうのが例とやら。
「それで拙者に毒蛇を投げつけたのか。や、それは甚だしい考え違いじゃ。世の中にそのような不思議が有って堪《たま》ったものではない。それは大方昔の人達が、限りある狭い土地の中に、広い浮世から隠れて住むためには、土地の女を他郷にやらぬようにと、そういう風につくり事して、いましめて置いたのであろう。それを今も猶《なお》まことにして守るのは愚かしい。どうじゃな、古くからの村の定法、今は何んの役にも立たぬ事を、そなた、打破って見たらどうじゃな。広い浮世が誰にも見られるように、村の娘達の後《のち》のためを考えて、そなたが先ず魁《さきがけ》を見せたらばな」
山間|僻地《へきち》に多年潜む排外思想の結果、若き女の血に燃えるのを、脅威を以て抑圧していた、その不合理を打砕《うちくだ》かせようと、直芳は熱誠を以て説き入った。
「広い浮世?」と娘はつぶやくのであった。
「おう、そこには大江戸もある。八百八町の繁昌は、人の口ではとても語り切れぬ
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