《ももひき》脚半の小紋或いは染色《そめいろ》を見て、皆々珍しがっているのであった。
家数昔は五十戸有ったが、今は二十戸という、その割には人の数の多いのに驚かれた。男は麻布の短き着物、女子《おなご》は紺の短き着物、白布の脚布《きゃふ》を出していた。髪は唐人風の異様に結んであった。最前の浴泉の美女はこの中にいないかと、直芳は注意して見たけれど、どうしても見つからなかった。
従者頭の中老人(佐平《さへい》という)に向って直芳はささやいた。
「今日まで絵にも見た事のない美しい娘を見つけ出した。なろう事なら妻にもらい受けて、江戸へ同伴致したい」それが串戯《じょうだん》とも思われなかった。
「それはとてもむつかしい事で御座りまする。この里からは女を一歩も踏み出させぬ昔からの定法で御座りまするで」と従者頭の中老人は答えた。
「それでは、この土地へ入婿に来たいものじゃ」
「それも駄目で御座りまする。他土地の者は、決して入れませぬ」
「ああ、それでは、どうする事も出来ぬのかなァ」
絶望した直芳は、村人が後《うしろ》から付いて来ぬように、ソッとこの家の庭を出て、森中から岩山へと登って見た。中腹には名
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