がわ》が竹釘で打付けてある、その上部の穴からして、ジッとこちらを凝視している一つの眼。それは別段大きくはないのだけれど、いやに底光りがして、何とも云えない凄味《すごみ》が差すのであった。その怪しき眼と直芳との眼とがバッタリと見合った時には、直芳は思わずゾッとして、怪しき無形の毒矢にでも、射込まれたような気持を感じたのであった。
それで急いで反対の方を見た。そちらの壁には、蔭乾《かげぼ》しにと釣り下げてある山草花の横手から、白露の月に光るが如き涼しく美しき眼の輝きが見えた。若き女性《にょしょう》と直覚せずにはいられなかった。あの浴泉の美女ではないだろうか。どうもその様に思われてならなかった。
壁を透かして雪の肌が浮出すかのように感じられて、直芳は恍惚たらずにはいられなくなった。
三
大炊之助は家重代の宝物、及び古文書を出して、勝国手に見せるのであった。いずれも貴重なる参考物なので、念入りに国手は調べ出した。
「この間に近所の見取絵を作りとう御座りまする。暫時失礼致しまする」
「ああ、それは宜しかろう」
直芳はただ一人で屋外に出た。そこに村人は集まって、乾した股引
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