で行った。谷川を徒歩《かち》わたりし、岩山をよじ登り、絶壁を命綱に縋《すが》って下り、行手の草木を伐開《きりひら》きなどして、その難行苦行と云ったら、一通りではないのであった。
勝|国手《こくしゅ》と立花画師との他は、皆人足で、食糧を持つ他には、道開き或いは熊|避《よ》けの為に、手斧《ておの》、鋸《のこぎり》、鎌《かま》などを持っているのであった。
三里という呼声《よびごえ》も、どうやら余計に踏んで来たように覚えた頃、一行は断崖下に大河の横たわるのに行詰った。
「三面川の上流に御座りまする。もう向岸が三面で御座りまする」
人夫の中の一人が云った。
「どこか、渡り好い処を選ぶように」
勝国手の命令で、人々手分けをして渡り口を求めに散った。この間に直芳も手帳矢立を取出して、写生すべく川端を少しく下手の方へと行ったのであった。
「あッ」
いくらか断崖の低くなっている処。下の深淵へ覗《のぞ》く様にして出張っている大蝦蟇形《おおがまがた》の岩があった。それに乗って直芳が下を見た時に、思わず知らず口走ったのであった。それは緑の水中に、消え残る雪の塊とも擬《まが》うべき浴泉の婦人を見出した
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