てやろうと息を殺して寝た、真似をしておった。
その間にいつしか本当に眠ってしまった。真夜中に目を覚まして、もう女はいないだろうと、布団の襟から顔を出して見ると、絹張の朱骨《しゅぼね》丸行燈《まるあんどん》の影に、ションボリとして一人の娘が坐《すわ》っていた。
おや、また来たのか。それとも先刻《さっき》から立去らずにいるのかと、その判断に苦しみながら。
「お前は何しに来た」そう云って詰問したツモリなのだが、どうしたのか、喉から声が出なかった。それを無理に出そうとすると、その苦しさと云ったらないのであった。これでは未《ま》だ本当に目が覚めていないのではないかと心着いた。
けれども夢で見るとは思われない程、行燈の影の娘はハッキリしていた。衣物《きもの》は黄八丈《きはちじょう》の襟付で、帯は黒襦子《くろじゅす》に紫|縮緬《ちりめん》の絞りの腹合せ。今までの石持染小袖《こくもちそめこそで》の田舎づくりと違って、ズッと江戸向きのこしらえであった。
色紙《いろがみ》縮緬を掛けた高島田が、どうしたのか大分くずれていた。ほつれ毛が余りに多過ぎる程、前髪と両鬢《りょうびん》とから抜け出ていた。項垂
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