》きなどしたが、純之進から言葉が無いので、手持なく去った。間もなく又一人、前よりも美しい娘が入来って枕頭に水入の銀瓶と湯呑《ゆのみ》とを置いて行くのであった。これも勿論《もちろん》小笠原流であった。
又次ぎから、又次ぎから、何か彼《か》か用事を設けては、入替わり立替わり、美しい娘が入り来《きた》った。どれも皆小笠原流。しかし急仕込には相違なかった。余りにドレも型に嵌《はま》り過ぎているのであった。
「ハハァ、これだな」
純之進は苦笑せずにはいられなかった。先輩から、くれぐれも注意されたのであった。村中での美しい娘を選んで、それを夜の伽《とぎ》に侍《じ》せしめようとするが、決してこれと親しく語り合うてはならぬ。そうすると必らず軟化させられて、知らず知らず領内の者に買収されて、豊作でも凶作のように、虚偽の報告を持ちかえらねばならなくなって、おまけに橋梁の架替えとか、神社仏閣の修繕とかに、主君《おかみ》から補助金を下げられるように、取り成しをしなければならなくなる。老年の者でも、ついこれには引掛かるのだから、若い者はよくよくそこを考えて、謹慎しなければならないというのであった。それで純之
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