願いでござりまする」
その声は悲痛|凄愴《せいそう》を極めたのであった。案内の男は忽ち逃げ出した。昼間幽霊が出たと思ったのか。純之進は心着いて背後を振かえって見た。五十歩ばかり隔てた草むらの中から、腰から上を現わした一人の男。毎日見えつ隠れつあたかも影の如く従うて来ていた土気色の若者であった。
「その方、何者かッ」と純之進が声を掛けた時に、謎の人は手を合せて拝む真似して、そのまま姿は見えなくなった。
鸚鵡石の怪におどろき、急いで純之進は帰路についたが、気にかかるので廻り路《みち》して、山番小屋の荒地に行って見ると、ここで村の者が大勢顔色を変えて、大騒ぎしていた。
何事かと側に寄って見ると、野猪《いのしし》が出て畑を荒らしたついでに、荒地まで掘散らして行ったので、そこから女の死骸が出掛かっているというのであった。純之進は胸を轟《とどろ》かして、それを覗《のぞ》き見て。
「あッ」と叫ばずにはいられなかった。それは毎夜つづけて夢に見た高島田の娘。それが正しく襟付黄八丈の衣物を着て、黒襦子と紫縮緬の腹合せ帯を締めたまま、後手に縛られて、生埋めにされて死んでいるのであった。
巡検使の
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