に高さ一丈五六尺、幅六尺ばかりの大岩が聳《そばだ》っていた。それが鸚鵡石であった。谷間《たにあい》二百歩ばかり隔《へだ》ちて、こちらから声を掛けると、同じ言葉を鸚鵡返しに答えるのだった。
「ああ、今日初めて自分の体になられた。人間は飾りを取った本当の生地で話し合うのが一番よいのだ。丹那へ来て安心して話の出来るのは、鸚鵡石殿、貴公ばかりだぞ」
 純之進が最初の声であった。すると同じ声が石の方でもした。純之進は全く清い清い心になりすました。
「これ、鸚鵡石殿、こっちにばかり物を云わさず、そちらからもチト何か申されぬか」と云った。それはホンの戯《たわむ》れに過ぎなかった。まさか石が人語を発しようとは思わなかった。
「お役人様……お役人様……」と突然鸚鵡石が声を発した。皆ビックリした。
「お訴え申上げます。当村に人殺しがござりました。その死骸《しがい》は山番小屋裏の荒地に埋めてござりまする」と又鸚鵡石が人語を発した。純之進はビックリした。若党は顔色を替えた。案内の下男は忽ちふるえ出した。
「それをお訴え致そうと存じましたが、今日やッと申上げられます。どうかお露の敵《かたき》をお取下さいまし。お
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