高島田の娘が、縛られた様をしては泣くのであった。これはどうも部屋に祟りがあるのだろうと、そういう迷信を起さずにはいられなかった。しかるに翌日は田代村を巡検して、それから長崎村に廻り、ここの吉左衛門《きちざえもん》という庄屋の家に一泊したが、この日も同じく謎の男が駕の近くに出没した。それのみならず不思議なのは、ここでも又前夜と同じ様に、高島田の娘の夢を見た。すると山田の家にのみ祟るとは思えなかった。
「何か拙者に訴えるところでもあるのなら、遠慮なく申せ。聞いて遣わそう」それだけ云おうとしても喉に詰って、その苦しみで又うなされた。毎夜毎夜同じ夢を見つづけるのは、全く怪しい限りであった。
四
怪しい二つの事件は、どこまでもないまぜに続いた。次ぎの日の巡検にも、純之進の目にのみ月代の土気色をした若者の姿は見えた。その夜神益村の庄屋|武左衛門《ぶざえもん》の家でも、高島田の娘は行燈の影に坐って泣いた。
その明くる日は洞道越《ほらみちごえ》という難所を通って再び丹那の山田家に帰り、これでほぼ巡検の任務を果したのであった。
大勢はすでに定まった。今度の役人に賄賂《わいろ》は利
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