だろうと思って、お前さんが身支度をしている間《うち》に乾漢《こぶん》を走らして道筋々々へ、先廻りして、身内の者に網を張らして置いたのよ。然うして後から私も化け込んで、見え隠れに附けているとも知らず、此女《こいつ》とお前さんは道連れに成って仲好くして、縺れぬばかりに田圃路を歩きなすった。案山子《かがし》まで見て嫉妬《や》いていたじゃあないか」
 お鉄の語る処では、此所の渡場を見張っていたのは、古い乾漢の阿法陀羅権次《あほだらごんじ》。博徒が本職の偽坊主で有った。
 立木台下の農家が悉く二人に無情なのも、皆お鉄の声が掛ったからと分った。
「さあ、私の威勢は這《こ》んなものですよ。それだのにお前さんは、這んなめそっ子[#「めそっ子」に傍点]と道行をするんですか。濡れたん坊と裸では、余《あんま》り粋《いき》じゃあ有りませんぜ」
 盲目的、病的嫉妬に燃える一心には、理も情も通らぬので有った。
「いや、決して二人は、仲の好いの悪いのと、左様な間では御座らぬ」と竜次郎は弁解に掛った。
「おかみさん、どうか悪く思わないで下さいまし」と小虎からも言解《いいと》きに掛った。
「えっ、お玉杓子《たまじゃくし
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