華手《はで》に抜手まで切って見せた。併しそれは僅かの間であった。坊主の云ったのは確実で、忽ち細長い藻の先が足に搦んだ。それはぬらぬらと気味悪く、妖魔の手でも有るかのように、水草《すいそう》にも血が通い、脈が打っているかと怪しまれる程。それに掛っては既《も》う如何《どう》にも成らなかった。いつしか左右の手にも藻は搦んだ。腰にも、腕にも、脇の下から斜《はす》に肩へ掛けても犇々《ひしひし》と搦んだ恐ろしい性《しょう》の悪い藻で有った。
 斯う見ては竜次郎、如何《どう》しても見殺しには出来なかった。併し木乃伊《みいら》取りが木乃伊に成るという事を考えずにはいられなかった。此方から飛込んでも、小虎の溺れている処まで行く身の、同じく人喰い藻に掛らずにはいない筈だ。
 それよりも先ず悪僧が憎くて成らなかった。悪戯にも程がある。岡焼《おかやき》としても念が入り過ぎた。狂か、痴か、いずれにしても今又自分が飛込んだら、どんな邪魔をするか知れないのだ。
 竜次郎は咄嗟に覚悟をした。
「えいっ」と早技。力一杯に手裏剣を打った。それは刀の小柄を抜いたのだ。五十間飛ばしたのは見事で有った。若《しか》も命中して、悪
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