りません。」
「そうか。それは何より難有《ありがた》い。」
と、今度は自分でその室に這入ったが、暫くして再び出て来たのを見ると大変な恰好だ。
新式空気自発器
各自《めいめい》の家によくある赤く塗った消火器のような恰好をした円筒を背にかけ、その下端に続いている一条のゴム管を左の脇下から廻して、その端は、仮面《めん》になっていて鼻と口とを塞いで、一見すると宛然《さながら》潜水夫の出来損いのような恰好だ。これは博士が非常な苦心の末に発見した新式空気自発器で、予め今日の用意のために整えておいたのだ。
訳を知らない二少年はこの様子を見ると病気を忘れて手を打って、
「やあ面白い恰好だなあ。どうしてそんなものを被るんです。」
博士は簡単にその理由《わけ》を教えて、まず自分で外へ出た。後に残った助手は同じく人数だけの自発器を持ち出して、各自《てんで》にそれを被らせ、続いて外へ出た。
頑丈に造ってある飛行器の肝要な室は比較的に安全ではあったが、外に出て見ると誠に酷い有様だ。
羽根は飛んで了《しま》い、檣《マスト》は折れ、その他表面にある附属物は一切滅茶滅茶に破損して、まるで蝗《いな
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