るものは鳥の鳴く音《ね》すらなく満目ただ荒涼、宛然《さながら》話しに聞いている黄泉《よみ》の国を目のあたり見る心地である。
空気は皆無
先刻から大分元気付いて来た晴次と光雄はこの光景《ありさま》を見ると、
「やあ酷《ひど》いなあ。さあいよいよ出かけようじゃないか。」
と、喜び勇んで最先に窓から飛び出したが、出たと思うと、真蒼になって這入って来て、再びそこに仆《たお》れて終った。
助手はこの有様に驚いて、早速介抱に取り懸ったが、月野博士は笑いながら、今二人の開けた窓を手早く閉めて少年の側に立ち寄って、
「あんまりばたばたするから不可《いけ》ない。僕の思った通りいよいよこの月世界にはもう空気が全くなくなって終っているんだ。」
といったが、急に思い出したように、傍の助手の方を振り向いて、
「おい山本。一寸《ちょっと》あちらの貯蔵庫を検べて見てくれないか。先刻《さっき》の騒ぎで悉皆《すっかり》壊れているかもしれない。あれが使えなくなってはそれこそ大変だ。」
「ハ。」と助手は隣の室へ行ったが直ぐ帰って来て、
「先生、大丈夫です。あちらは後部にあったもんですから、それほどの損害はあ
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