間に出没していた。それが上杉謙信《うえすぎけんしん》の小荷駄方《こにだがた》に紛れ入って、信州甲州或は関東地方にまで出掛け、掠奪《りゃくだつ》に掛けては人後に落ちなかったが、余りに露骨に遣り過ぎたので、鬼小島弥太郎《おにこじまやたろう》に見顕《みあらわ》されて殺されたという。
父は岩五郎《いわごろう》と呼び、関川の端《はず》れに怪しき旅人宿を営んでいたが、金の有る旅客を毒殺したとの疑いで高田《たかだ》城下へ引立てられ、入獄中に牢死した。母はそれを悲しんで、病を起して悶《もだ》え死に死んだ。
兄の鉄之助《てつのすけ》というのが、その為に高田の松平《まつだいら》家を呪って、城内に忍び込み、何事をか企てようとしたところを、宿直《とのい》の侍女に見出されて捕えられた。それは当主|光長《みつなが》の母堂(忠直《ただなお》の奥方にして、二代将軍|秀忠《ひでただ》の愛女《あいじょ》)の寝室近くであった。その為に罪最も重く磔刑《はりつけ》に処せられたのであった。
こういう因縁の下に滝之助は、高田の松平家を呪って呪って呪い抜き。
「何んとかして敵《かたき》を討つ! 怨恨《うらみ》を晴さいで措《お》
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