こうかッ」
燃えるが如き復讐心を抱いて、機会の到来を待っているのであった。
今ここで武道者を殺害した滝之助は、その血の滴たる鎌を洗うべく御手洗池《みたらしいけ》に近寄った。蠑※[#「虫+原」、第3水準1−91−60]《いもり》が時々赤い腹を出して、水底に蜒転《えんてん》するのは、鎌の血と色を競うかとも見えた。
滝之助は血鎌を洗う前に、清水を手に掬って、喉の乾きを癒《い》やさずにはいられなかった。大男の圧迫がかなり長く続いたからであった。
「滝之助、美事に遣りおったな」
不意に後から声を掛けられたので、滝之助は吃驚《びっくり》した。次第に依ってはその人をも殺して罪を隠そうと、身構えながら、振向いて見た。
「おう、先生!」
いつの間に来たのやら、まるでそれは地の底からでも湧き出したかの様。白髪を後茶筌《うしろちゃせん》に束ねた白髯《はくぜん》の老翁。鼠色の道服を着し、茯苓《ぶくりょう》突《つ》きの金具を杖の代りにして立っていた。
「でかしたでかした。敵は大男じゃ、しかも諸国武者修業人じゃ。道場荒しの豪の者を鎌で一息に遣りおった。見事! 見事!」と老翁は賞め立てた。
「思い切って片
前へ
次へ
全32ページ中7ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
江見 水蔭 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング