死に方。
美少年は後から、トンと武道者の背を蹴った。前にバッタリ大木が倒れた状態。山蟻《やまあり》が驚いて四方に散った。
血鎌を振って美少年はニッコと笑み。
「たわけな武者修業|奴《め》、剣法では汝《うぬ》には勝てぬけども、鎌の手の妙術、自然に会得した滝之助《たきのすけ》だ。むざむざ尻叩《しりたた》きを食うものか」
冷笑の裡《うち》に再び印籠を取り上げた。
「これで八十六になった」
二
美少年滝之助は越後《えちご》領|関川宿《せきかわじゅく》の者、年齢《とし》は十四歳ながら、身の発育は良好で、十六七にも見えるのであった。それで又見掛けは女子《おなご》に均《ひと》しい物優しさ、天然の美貌は衆人の目につき、北国街道の旅人の中にも、あれは女の男に仮装したものと疑う者が多いのであった。
それが鎌遣《かまつか》いの名人、今日はここで荒熊の如き武道者をさえ殺したのであった。見掛けに依らぬ大胆不敵さ、しかも印籠盗みの罪を重ねて八十六とまでに数えるとは。
それには遺伝性も有った。時代と境遇との悪感化も加わった。祖父は野武士の首領で、大田切《おおたぎり》小田切《おだぎり》の
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