大道臼《だいどううす》のようなのは、随分斬り出があったろうと思います」と語り出した。
「ふむ、それは怪《け》しからん。女の臀部《でんぶ》を斬るとは一体何の為だか。いずれ馬鹿か、狂人《きちがい》の所業《しわざ》であろうな」と源八郎も新事実を聴いてちょっと驚いた。
「まだほかに何があったか知れませんが、それはただ私達の耳に入らねえだけのことだと思います。今夜もきっと何かあるだろうと思われますよ。何しろ諸方から大勢人が入込んで居りますから……それに、昨年は、信州《しんしゅう》のある大名のお部屋様が、本町宿《ほんちょうじゅく》の本陣《ほんじん》旅籠《はたご》にお泊りで、そこにもなんだか変な事があったそうで、それについては私は能《よ》く存じませんがね」
「大名のお部屋が泊っていても、矢張神輿渡御の刻限には火を消さずばなるまいな」
「それはもうどちら様がお泊りでも、火を点《つ》けることはできますまい」
源八郎は考えた。六人の旗本の鼻を削ったのと、十数人の女の臀部を斬ったのと、又大名の愛妾《あいしょう》を襲ったのと、同一人物の手であるかどうか。これは研究物だと心着いたのであった。
この時、旅商人
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