ているのだが、一向酔ったような顔はしていなかった。色は青味を帯びた、眉毛の濃く、眼の鋭い、五分《ごぶ》月代毛《さかやけ》を生《はや》した、一癖も二癖もありそうなのが、
「お武家様、失礼ながら、大分御酒はいけますようで」と声を掛けた。
「いや余計もやらぬが、貧乏世帯の食事道具|呑位《のみぐらい》のものじゃ」
「へえ、貧乏世帯の食事道具呑……聴いたことがございませんな。それはどういう呑み方でございますか」
「金持の道具では敵《かな》わぬが、貧乏人の台所なら高が知れておる。それに一通り酒を注《つ》いで片っ端から呑み乾すのだ」
「へえ、それでは、まあ茶碗に皿、小鉢、丼鉢、椀があるとして、親子三人暮しに積ったところで、大概知れたもんでございますな。手前でもそれなら頂けそうでございます」
「ところが、拙者は茶碗や皿などは数には入れておらん。いくら貧乏世帯でも鍋釜はあるはず。それまで一杯注いで置いて呑む」
「こいつあ恐れ入りました」
まさか小机源八郎、それ程呑めもしないのだが、座興《ざきょう》を混ぜて吹飛ばしたのだ。
話が面白くなって酒も大分はずんで来た。
「や、拙者は当所の御祭礼は初めてだが、
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