で水祓《みそぎ》をなさいまして、それから当日まで斎《いみ》にお籠《こも》りで、そういう縁故から品川の漁師達も、取立ての魚を神前へお供えに持って参りまするが、同じ持って行くのならたくさん持って行って売った方が好いなんて、いつの間にやら商売気を出してくれたのが、私達の仕合せで、多摩《たま》の山奥から来た参詣人《さんけいにん》などは、初めていきの好い魚を食べられるなんて、大喜びでございます」
「そう講釈を聴くと江戸では珍らしくないが、一つ海鰻を焼いて貰って、それから鯒は洗いが好いな。まあその辺で一升つけてくれ」
「一升でございますか」
「いずれ又後もつけて貰う。白鳥《はくちょう》で大釜へつけて持って来い」
「へえへえ」
小机源八郎は長沼の内弟子。言って見れば今の苦学生だ。金は無いのだ。ところが今日は暗闇で旗本六人が鼻をそがれた敵討というので同門から金を集めてくれたので、大分|懐中《ふところ》は温かいのだから、大束《おおたば》を極めて好きな酒が呑めるのであった。
隣りの腰掛で最前から、一人でちびりちびり、黒鯛の塩焼で飲んでいる旅商人《たびあきんど》らしい一人の男。前にも銚子が七八本行列をし
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