行される。五日には大神事として、八基の神輿が暗闇の中を御旅所《おたびしょ》に渡御とある。六日には御田植があって終るので、四日間ぶっ通しの祭礼を当込みに、種々《いろいろ》の商人、あるいは香具師《やし》などが入込み、その賑《にぎ》わしさと云ったらないのであった。
 源八郎は番場宿《ばんばじゅく》の立場茶屋《たてばぢゃや》に入って、夕飯の前に一杯飲むことにした。客はほとんど満員の有様なので、ようやく庭の隅の方の腰掛に席を取った。
「肴《さかな》は何があるな。甲州街道《こうしゅうかいどう》へ来て新らしい魚類を所望する程野暮ではない。何か野菜物か、それとも若鮎《わかあゆ》でもあれば魚田《ぎょでん》が好《よ》いな」
「ところがお侍様、お祭中はいきの好い魚が仕入れてございます。鰈《かれい》の煮付、鯒《こち》ならば洗いにでも出来まする。そのほか海鰻《あなご》の蒲焼に黒鯛《かいず》の塩焼、鰕《えび》の鬼殻焼《おにがらやき》」
「まるで品川《しながわ》へ行ったようだな」
「はい、みな品川から夜通しで廻りますので。御案内でもござりましょうが、お祭前になりますると、神主様達が揃って品川へお出《い》でになり、海
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