でもござらぬで」という説も出て、要するに何の目的で誰がそのような悪戯をしたのやら、少しも見当がつかぬのであった。
 小机源八郎も、これには多少の興味を持たぬではなかったので、
「よろしい。しからば拙者、府中へまかりこし、怪物の正体を見届け、巧《うま》く行けば諸氏の敵も討ち申そう。しかし、まかり間違ったら拙者の鼻もいかがでござるか」
 笑いながら出て行った。

       二

 江戸より府中までは八里。夕方前に小机源八郎は着いた。
 府中はいまさら説くまでもなく、古昔《いにしえ》の国府の所在地で、六所明神は府中の惣社《そうじゃ》。字は禄所《ろくしょ》が正しいという説もあるが、本社祭神は大己貴命《おおなむちのみこと》、相殿《あいでん》として素盞嗚尊《すさのおのみこと》、伊弉冊尊《いざなみのみこと》、瓊々杵尊《ににぎのみこと》、大宮女大神《おおみやひめのおおかみ》、布留大神《ふるのおおかみ》の六座(現在は大国魂《おおくにたま》神社)。武蔵《むさし》では古社のうちへ数えられるのだ。
 毎年五月三日には、競馬《くらべうま》が社前の馬場において、暗闇の中で行われる。四日には拝殿において神楽が執
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