している娘を三人で介抱して、蘇生さして、脅《おど》しつ透《すか》しつ取調べた。
 最初は泣いてばかりいて、どうしても白状しなかったが、絶対にこの事実は秘密にしてやるという条件が利《き》いて、娘は奇怪なる犯罪の事実を告白に及んだ。
 娘は社家《しゃけ》、葛城藤馬《かつらぎとうま》の長女で稲代《いなよ》というのであった。
 神楽殿の舞姫として清浄なる役目を勤めていたのであったが、五年前の暗闇祭の夜に、荒縄で腹巻した神輿かつぎの若者十数人のために、乳房銀杏の蔭へ引きずられて行き、聴くに忍びぬ悪口雑言に、侮辱の極みを浴びせられたのであった。
 余りの無念|口惜《くちお》しさ。それに因果な身をも耻《はじ》入りて、多摩川に身を投げて死のうとしたことが八たびに及んだ。それを発狂と見られて、土蔵の中を座敷牢にして、三年ばかり入れられていた。この裏面には継母の邪曲《よこしま》も潜むのであった。
 既に定《さだま》っていた良家への縁談は腹違いの妹にと移された。
 稲代はかかる悲運に陥《おとし》いれた種蒔の若者達を、極悪の敵《かたき》と呪わずにはいられなかった。けれどもどこの誰やら暗闇の出来事とて、もとより
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