知れようはずがなかった。
 復讐、それは誰に向って遂げようもない。悲劇中の悲劇であった。終《つい》には世の中を呪い出した。人間を呪い出した。別して若い男、若い女、それを無上に呪い出した。
 三年の座敷牢。土蔵の中の暗さに馴れて、夜目が恐しく利くようになったのを幸、去年の暗闇祭に紛れて、男の鼻をそぎ、女の臀を切ったのであった。
 そのために非常な快感を覚えたのであった。今年もまたそれを企てたのであった。これでは矢張|狂人《きちがい》なのであった。家人が座敷牢から自由にしたのが間違っているのであった。
 不思議な事実を聴いて三人とも、娘稲代に同情して、好いか悪いか分らなかった。
「これではなるほど、犯人が分らなかったわけだ」と源八郎は云った。
「それを見付けたのは五郎助七三郎だ。や、いくら夜目が利くからって、お前さん達は本統の目先が利かねえのだから駄目の皮だ。そこへ行くと矢張江戸っ子でなくっちゃあ通用しねえ。この犯人を女と睨んだところが全く気の利いているところなんだ」と無闇に七三郎威張り出した。
「なんだ。貴様、すり[#「すり」に傍点]の癖に、生意気な事を云うなっ」と泰雲が赫《かっ》となっ
前へ 次へ
全31ページ中28ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
江見 水蔭 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング