はっはっ曲者が見付からないので、埋合せに美人を生捕って来たな。酒の酌でもさせようというのであろうが、それはよろしくない。帰してやれ。おや、ぐったりしているじゃあないか。気絶しているのか」
七三郎は黙ってそこへ娘を下した。そうして片手の平で鼻を一つ擦《こす》り上げて、腮《あご》をしゃくって反り身になり、
「さあどうだ。二人とも地面《じびた》に手を仕《つ》いて、お辞儀をしなせえ。拳固で一つ頭をこつんだ。もちろん酒は私が奢《おご》ってやる」と馬鹿に威張り出した。
「おいおい、血迷っちゃいかん。切られた娘を連れて来たって何になるか。切った奴を連れて来なけりゃあ駄目だ」と源八郎が笑いながら云った。
「ところがこの娘が今夜も遣ったんで、去年のも多分そうでしょう」
「えっ」
「お前さん達は男ばかり目を付けて廻ったから逃がしたんで、あっしは女に目を付けたんで奴と分った。当身で気絶さして、引担いで来たんです。御覧なさい、着物に血が着いている。手にも着いてるでしょう。帯の間に血塗《ちまみ》れの剃刀《かみそり》が手拭に巻いて捻込《ねじこ》んであります」
「うーむ」
今度は大竜院泰雲が唸り出した。
気絶
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