世界に急変するのであった。家々の高張、軒提燈《のきぢょうちん》は云うも更なり、四ヶ所の大篝火《おおかがりび》は天をも焦《こ》がすばかりにて、森の鳥類を一時に驚かすのであった。
「又遣られたっ」
「今年は耳を切られた者が三人」
「鼻をそがれたのも五六人あるそうな」
「女は相変らずお臀だそうな」
 群集の中で、あちらこちらに怪事件を語り伝えるのであった。
     *       *       *
 社後の裏山大欅の下に、真先に帰って来たのは怪山伏泰雲であった。はなはだ機嫌が悪く、ぶつぶつ独語《ひとりごと》をつぶやきながら、金剛杖で立木を撲りなどしていた。
 そこへ怪剣士小机源八郎が、ぼんやりした顔で帰って来た。
「やあお前もしけ[#「しけ」に傍点]か」
「どうも見付からなかった」
「しかし、矢張、やられた者があるようだな」
「我々で見廻って発見されないのだから、すり[#「すり」に傍点]の野郎にはとても駄目だろう。今にしょげながら帰って来るよ」
 そう話し合っているところへ、怪巷賊《かいこうぞく》五郎助七三郎が帰って来た。背中に黒髪振乱したる若い娘の、血に染ったのを背負って来た。
「はっ
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