して、敗けた二人は仕方がない、お辞儀をする。そうして一つ拳固《げんこ》で頭をこつん。これくらいの余興がないと面白くない」と泰雲が主張した。すり[#「すり」に傍点]の上前を跳ねて、酒を呑もうなんて、えらい奴もあったものだ。
 こうして、遺伝性で夜目の利く大竜院泰雲。奇蹟的に夜目の利く小机源八郎。練習の功で夜目の利く五郎助七三郎。この三人は社後の林を出て、思い思いに三方に散った。

       八

 いよいよ暗闇祭の時は来た。神宮|猿渡何某《さるわたりなにがし》が神殿において神勇《かむいさめ》の大祝詞《おおのりと》を捧げ終ると同時に、燈火《ともしび》を打消し、八基の神輿は粛々として練り出されるのであった。
 七基は二の鳥居前より甲州街道の大路を西に渡り、一基は随身門《ずいしんもん》の前より左に別れ、本町宿の方から共に番場宿の角札辻《かどふだつじ》の御旅所にと向うのであった。
 三人は三人互いに姿を晦《くら》まして、どちらに向ったか知れぬのであった。
     *       *       *
 くさくさの式も首尾好く終って鼕々《とうとう》と打鳴らす太鼓の音を合図に、暗黒世界は忽ち光明
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