同体にして、弘法大師《こうぼうだいし》の作とあります。別当は真言宗《しんごんしゅう》にして、金生山《きんしょうざん》龍王密院《りゅうおうみついん》と号し、宝永《ほうえい》八年四月、海誉法印《かいよほういん》の霊夢《れいむ》に由り……」
「宗匠、手帳を出して棒読みは恐れ入る。縁起を記した額面を写し立のホヤホヤでは無いかね」
「実は、その通り」
他愛の無い事を云っているところへ、茶店の嬶さんが茶を持って来た。
「お暑う御座いますが、お暑い時には、かえってお熱いお茶を召上った方が、かえってお暑う御座いませんで……」
「酷くお暑い尽しの台詞《せりふ》だな。しかし全くその通りだ。熱い茶を暑中に出すなんか、一口に羽田と馬鹿にも出来ないね」
「能《よ》く江戸からお客様が入らッしゃいますで、余《あん》まりトンチキの真似も出来ませんよ」
「それは好いけれど、何かこう、茶菓子になる物は無いかえ。川上になるが、川崎《かわさき》の万年屋《まんねんや》の鶴と亀との米饅頭《よねまんじゅう》くらい取寄せて置いても好い筈だが」
「お客様、御冗談ばかり、あの米饅頭は、おほほほほ。物が違いますよ」
「ははは。羽田なら船
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