なんと云って呼ぶかね。羽田の弁天娘のお玉の船やアーい、か」
二人が土手で騒いでいる声を聴いて、中洲の蘆間を分けて出て来たのは、苫《とま》の代りに帆で屋根を張った荷足り船で、艪を漕いでいるのは、弁天娘のお玉だが、若殿六浦琴之丞の姿は見えなかった。
「宗匠、いよいよ遣《や》られましたぜ。鳶の者が櫂で叩落されたと同じ様に、御前も川へドブンですぜ。肱鉄砲《ひじでっぽう》だけなら好いが、水鉄砲まで食わされては溜《たま》りませんな」
「そんな事かも知れない。若殿の姿が見えないのだからな」
「こうなると主人の敵《かたき》だから、打棄《うっちゃ》っては置かれない。宗匠も助太刀に出て下さい」
「女ながらも強そうだ。返り討は下さらないね」
そう云っているところへ、船は段々近寄って来た。
「娘の髪が余りキチンとしていますぜ。些《ちっ》とも乱れていませんが、能く蘆の間で引懸《ひっかか》らなかッたもので」
「巻直したのだろう」
「濡れていませんぜ」
「当前《あたりまえ》さ、帆で屋根が張ってあるから大丈夫だ」
「おやおや、帆屋根の下に屍骸《しがい》がある。若殿が殺されていますぜ」
「なに、寝ていらッしゃるんだ
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