と宗匠は雪駄を市助に持って貰い、脱いだ足袋を自分で持って、裾をからげながら田甫路《たんぼみち》を歩いた。
「どうせお旦那《だんな》はお濡《ぬ》れなさいましたよ。どうしても清元《きよもと》の出語《でがた》りでね、役者がこちとらと違って、両方とも好う御座いまさア」と市助も跣足《はだし》で夕立後の道悪《みちわる》を歩いて行った。
「よもや、鳶の者の二の舞はなされまい。何しろ御旗本でも御裕福な六浦琴之丞《むつうらきんのじょう》様。先殿の御役目が好かッたので、八万騎の中でも大パリパリ……だが、これが悪縁になってくれなければ好いが、少々心配だて」
「宗匠、大層、月並の事を仰有《おっしゃ》いますね」
「何が月並だよ」
「だって、吉《よ》かれ凶《あ》しかれ事件《こと》さえ起れば、あなたの懐中《ふところ》へお宝は流れ込むんで」
「金星、大当りだ。はははは」
笑いながら土手の上に出て見ると、そこには船は見えなかった。
「おや、今の夕立で船が沈んだか。それとも雷鳴《かみなり》が落ちて、微塵《みじん》になったか」
「そんな事はありませんや。どこかへ交《かわ》しているんでしょう。なにしろ呼んで見ましょう」
「
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