参詣、厄除《やくよけ》の御守を頂きにはぜひ上陸|然《しか》るべし。それから又この船で川崎の渡場まで参りましょう」と宗匠はさきに身支度した。
 中間市助は、早や岸に飛んで、そこに主人の雪駄《せった》を揃えていた。
 それで未だ若殿は立上りそうも無いのであった。
「痛ッ、痛ッ、どうも腹痛で……」と突然言い出した。
「えッ、御腹痛、それには幸い、大森で求めた和中散《わちゅうさん》を、一服召上ると、立地《たちどころ》に本腹《ほんぷく》致しまする」と宗匠、心配した。
「いや、大した事でも無い。少しの間《うち》、休息致しておれば、じき平癒致そうで……どうか身に構わず行って下さい」
「でも、御前《ごぜん》がお出《い》でが無いのに、我々で参詣しても一向|興《きょう》が御座いませんから……」
「いや、遊びの心で参詣ではあるまい。大師信心……どうか拙者《せっしゃ》の代参として、二人で行って貰いたい」
 中間市助、宗匠の袖を引いて。
「それ、御代参で御座いますよ。宗匠、分りましたか。二人は御代参……ね、厄除の御守りを頂くので御座いますよ」と目顔《めがお》で注意を加えた。
「な、な、な、なる程、や、確かに二人
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