なぶ》りなさいますな」
「いや、本統《ほんとう》だよ、奉公どころか、嫁に欲しいと望む人も出て来るよ」
「おほほほは、私、羽田の漁師を亭主に持とうとも思いませんが、御武家様へ縁附こうなんて、第一身分が違いますでねえ」
「身分なんて、どうにでもなるもんだよ。仮親さえ拵《こしら》えればね」
「……ですが……私はとても、そんな出世の出来る者では御座いません」と急にお玉は打萎《うちしお》れた。
若殿の心の帆は張切って来た。
「いや、そんな事はどうにでもなるんだよ。とにかく、どうだね、身が屋敷へ腰元奉公に来る気は無いか」
「えッ、御前の御屋敷へ?」
とんと洲へ船を乗上げた。話に実が入って梶を取損《とりそこな》ったからであった。
市助まず喫驚《びっくり》して飛起きると、舳を蘆間に突込んだ拍子《ひょうし》に、蘆の穂先で鼻の孔を突かれて。
「はッくしょイ」
宗匠は又坊主頭を蘆の穂先で撫廻《なでまわ》されて。
「梨の実と間違えて、皮を剥《む》いちゃア困ります」と寝惚《ねぼ》けていた。
五
やがて船を大師河原の岸に着けた。
「さて、ここが森下というのだね。平間寺《へいけんじ》へ御
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