ね。大層お前は親孝行だそうだね」
「いいえ……嘘で御座いますよ」
「両親は揃っているのかい」
「いいえ、母親ばかりで御座います」
「それは心細いね。大事にするが好い」
「まア出来るだけ、楽をさしたいと思いますが……餌掘りや海苔《のり》拾い、貝を取るのは季節が御座いますでね、稼ぎは知れたもので御座います」
「でも、こうして船を頼む人が多かろうから……」
「いいえ、偶《たま》にで御座いますよ。日に一度|宛《ずつ》お供が出来ますと好いのですが、月の内には数える程しか御座いませんよ」
「それでは困るねえ、早く婿《むこ》でも取らなくッちゃア……」
「あら、婿なんて……」
「だッて、一生独身で暮らされもしなかろう」
「それはそうで御座いますが、私、江戸へ出て、奉公でもしたいと思っております」
「奉公は好いな。どうだな、武家奉公をする気は無いかな」
「私の様な者、とても御武家様へはねえ……こちらで置いて頂きたくッても、先方様《さきさま》でねえ」
「いいや、そうで無いよ。お前の様な美顔《きりょう》で、心立《こころだて》の好い者は、どのくらい武家の方で満足に思うか分らない」
「おほほほは、お客様、お弄《
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