うのであった。仮装舞踊会のように私は日覆《ひお》いして夜の明けるのを待ったのだが、タンゴの太い曲線が寝床の夢を誘うように、彼女が夢のなかで、
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宵闇《よいやみ》せまればレジエント街の並木道を
満艦飾の女が馬車で
カールトン・バアで卸して頂戴ネ
と馭者《ぎょしゃ》に云う
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 と、低唱しながら屡々《しばしば》、ちえ! 田舎医者奴! と繰りかえして寝言を云うのであった。また、大切なところで彼女は東洋の霊のような鼾《いびき》をかいて寝てしまうのだが、私は彼女の肉体に金羊毛酒場《カバレット・トア・ズン・ドル》の女としてふさわしくないところがあるのに気付くのであった。そのカバレット・トア・ズン・ドルの淡い憶《おも》いがネムの花に夢のように、あらわれるのだが、彼女は何もかも知らぬふりをして、私の用事を待つ、それが英国種の牝犬のように無関心な顔をして、その実細心なデコルテを内にかくしてかしこまっている。よんどころなく私はシネマの伴奏のような諷刺的な説明をはじめた。
 ――やあ、アダ。僕はマルセーユから催眠酒をのまされたような意識を失って近東行の急行列車に乗
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