孟買挿話
吉行エイスケ
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)孟買《ボンベイ》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)私達|孟買《ボンベイ》在住の
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#ここから1字下げ]
−−
1
数年前、孟買《ボンベイ》の赤丸平家の日本人倶楽部の Chamber maid に河上アダという混血児が雇われていた。
外国の日本人経営のクラブとかレストランでは先例によって女を雇入れることはめったにないことなのだが、私は天津《テンシン》の日本租界、敷島町の或るレストランに近頃日本の少女が青磁の衣服をつけてそれでなくとも感傷的になった旅人の私の心を瞑想的にするのに会ったことがある。
それだからアダがコケティッシュな服装で赤丸平家の日本人倶楽部に現われたときは、凡《およ》そ浮かれ男の眼にはそれがアラビア海のマラバル岬に鮮かな赤更紗の虹がうき出たように濃い色彩を着けたことは勿論だがまた彼女が短いスカートから現した近代的な武装を解除した両脚にはいた棕櫚《しゅろ》の葉で作ったような靴下の野性的な蠱
次へ
全24ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
吉行 エイスケ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング