女の嬌態《びたい》、近世のパーシ女に袖を引かれて茶店に出入するのですが、私達日本の男子で印度のフラッパ女に靴の紐など結ぶように命令されて、諾々《だくだく》としているような非国民は一人だっていないのです。ですから、たとえ英国種の牝犬であろうとも近代的な同胞の女の奔放な脚をみて私達は気狂いのように騒ぐのです。
――土人街の日本の坊主頭から苦情は出ないのですか。
すると彼は熱帯地の植物のような息を私に吐きかけて、
――どうか、なぶらないでください。私達はアダによって訓練されたいとさえ思うほどです。アダの声音は印度の夜の国境、ヒンズークシ山脈の下をアフガニスタンに向って疾走する急行列車にもまして叡智《えいち》がひらめくのです。彼女の軽快に床を踏む靴先で私達の心臓にパミルの隧道《トンネル》をつくるぐらいは訳ないことなのです。
私が彼の興奮をさえぎって単刀直入に、
――アダを私に世話していただけませんか。と、切り出すと彼は熱情を鞘《さや》におさめてから冷淡に私に答えるのであった。
――アダは貴方のお部屋に寝床をとりに行くのです。そして貴方もまた、アダに惚々する私達同志の一人におなりだろ
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